アイデアのスープのレシピ

アイデアのレシピ集

新婚旅行分割払い

新宿御苑から見る桜の風景

「桜が見たい」

とワイフが言うので、岡山行きのフライト時間までの1時間を使って、数年ぶりに新宿御苑へと足を運んだ。僕は高校2年の頃から10年間、毎年のように新宿御苑へ桜の花を見に来ていた。それも一人で。ここは酔客が騒ぐ事も無く静かに桜を見る事が出来る数少ない場所のひとつだ。ある雨上がりの日にここの桜の樹の下にむした苔を見て、現在のパンに使っている酵母の採取方法の原型を思いついた。その頃はパンなんか焼いてなかったから、おそらく細菌学にでも興味があった頃だろうかな。

しかしビルが増えたな。御苑の内側からの風景が一変していた。でも、これはこれでダイナミックな都市型の景観という感じでなかなかカッコいい。なんだか昭和っぽくて僕は好きだなあ。

こやって新しいものは生まれる

視線のすぐ上の桜の枝に、新しい芽が出ているのが見られた。黒く堅い樹皮に鮮やかな緑色の新芽が顔をのぞかせている。隣り合った複数の芽は、なにか話でもしているのだろうか。いろいろな方向に向いてなんだか賑やかだ。

あら、きれいねえ、あなた見てごらんなさい

「あら、きれいねえ、あなた見てごらんなさい」

途中、車いすの老夫婦を見かけた。ずーっとゆっくりと車いすを押す夫。花を愛でながらなにやら話しかける妻。桜の花を見るのも楽しいが、こういった人の風景を見ているのもなんだか楽しい。年老いた夫婦は、いままでに何度桜の風景を一緒に眺めたのだろうか。でも、こうやって毎年新鮮な気持で花を愛でる事が出来る。幸せそうな二人だった。彼らにとっては二人でいる事がいつも新婚旅行なのかもしれない。

地に咲く花

桜の根元から花を咲かせているのを見つけた。地に深く広く根を張った桜の古木は、あらゆるところから生命の息吹きを見せつける。見上げてばかりだった花見が、なんだか手のひらに収まるような感じになって、ちょっとかわいい。

こうやってワイフとともに新宿御苑に来られるなんて、夢にも思わなかった。ここは僕が大好きな場所。でも、この場所が好きだった事すらすっかり忘れてしまっていた。

若い頃は、千駄ヶ谷の駅から国立能楽堂に行き、学生チケットで能と狂言を観て、御苑を通って新宿駅へ戻るのがいつものコースだった。あの頃に感じた事やあの頃に観た物が、今の僕の全てなのかも知れない。若い頃はよく一人で行動していたが、今はワイフと一緒だ。今まで見て来た東京の風景を、これからはワイフと共に感じる事になるんだなあ。

知り合ってから3年半。仕事以外で出かける事も無く過ごしてきた中で、はじめて無為に時間を過ごす事が出来た気がする。僕らにとってはこんなことでも、分割で楽しむ新婚旅行みたいなものだ。でも新婚旅行の分割払いは、まだ頭金の一部も払っていないようなものだけどもね。