アイデアのスープのレシピ

アイデアのレシピ集

都市の面白さは馬鹿の数に比例する

岡山にいると1週間に数人の頻度で知らない人から連絡がある。誰かから経由して僕の電話番号を聞いてくるらしいんだけど。内容はみんな同じで「東京に進出したいんだけどどうすればいいか?」とか「東京のデパートに出すためにはどうすればいいか?」とか「全国版のテレビや雑誌に取り上げてもらうためにはどうすればいいか?」とかそういう相談だったりして、答えようのない質問ばかりなので困ってしまう。だってみんな岡山でそこそこ流行っているし、岡山のデパートとかで取引あるし、岡山のテレビや雑誌に出てる人ばかりだからね。ウチは岡山では売れてないし、岡山のデパートとは取引がないし、岡山の雑誌には載ったことがないんだから、こういう場合の答えは「岡山で流行んなきゃ東京で行けるんじゃない?」というぐらいしかない。みんなだいたい怒るけどね。

僕は生まれて以来「○○を××するにはどうしたらいいのか?」という質問を他人にしたことがない。だから答えてあげる言葉がわからない。もし聞いたとしても多分僕は出来ないと思う。誰かに何かを習ったらそれ以上になれないといつも思っていたし、他人と違うことをやれというのが小さい頃から受けていた教育だったから、誰かがやっていることをやりたくなるという経験もない。現代はスピードの時代だから、初期投資を抑えてノウハウは誰かに聞くか既存の資源を使い、利益が出なくなれば捨てればいいという考え方が主流かも知れないが、僕はそういう利口な考え方を受け入れる脳の部分が欠損しているらしい。

母方の祖父が弁理士で父方の祖父が繊維で一発当てた山師という環境で育った僕は、ゼロからやるのが一番面白いという思考のしかたがDNAに組み込まれているような気がする。今まで誰もやっていないことをやることに喜びを見出すというのは、儲けたいとか、そういうこととは離れた場所に存在している。「今まで誰もやったことのないことをしたいんですけど、どうすればいいですか?」という質問は成り立たない。だって誰にも経験が無いから僕がするわけだしね。だから困難が山のようにあるんだけど、最初から誰かに相談しても解決しないと分かっているから結構気楽だったりする。周囲から見ると大変なように見えるらしいけど。

今の言葉で言えば「リスクを取る」ということになるのかも知れない。でも、当の本人はそんなこと考えていなくて。「もうどうしようもなく○○がしたいから、とにかく××するんだ」というノリでやり続けているのかもね。僕の今の生き方(仕事?)は、相対比較では誰にも勝てないから絶対比較で見てもらう他に、この社会で認められる方法が無かったからなわけで、集団の中で政治的に振舞うのも嫌いだし、喧嘩はしても悪口を言うのは違うかなあと。悪口言って喧嘩になることはあるけどね。

「○○を××するにはどうしたらいいのか?」という質問をする人は頭がいいと思う。自分で道を切り開くのではないから、ノウハウを他人に聞けば時間を短縮できるわけだし効率が良い。で、岡山でそういう質問をされる方に僕がよく言うのは「岡山には優秀な人が多いですよね」というセリフ。別に嫌味で言っているわけではない。本当にそう思う。岡山でお店をする人はすぐに他店舗化する人が多い。ウケるものを量産することがうまいのだと思う。その代わり岡山にはこだわったオリジナルな個店が驚くほど少ない。ウケるけど面白くないものが街に溢れてしまい、刺さるけどウケないものは存在が許されない。どこの街に行ってもあるような「のっぺらぼう」な店しかない「のっぺらぼう」な街になってしまっている。

この世に実利だけを追う人しかいなかったらどうだろうか。たぶんちっとも面白くない気がする。でも頭がいい利口な人は無駄な事はせず実利のみを追い求めるだろう。頭がいい人がたくさんいる街はきっと面白くない。頭がいい人は無駄が嫌いだ。僕は高校から東京に出てきたが、岡山と東京の違いは何かという問いにいつもこう答える。

「東京には馬鹿が腐るほどいるが、岡山には馬鹿がいない」

新しいものを作るのはいつも馬鹿の仕事だ。自動車だって飛行機だって誰かが最初に作らなければこの世には存在しない。まともな奴は昔々に自動車や飛行機を想像すらできなかったと思う。まともな頭の人たちは延長線上の想像しかできないからだ。馬鹿は突飛なことを言う。馬鹿は田舎で噂になる。馬鹿は田舎では後ろ指をさされてしまうので生きて行くのが辛い。汗をかきながらラーメンをすするデブのように生きて行くのが辛い。

ただ、新しいものを作るのはいつも馬鹿の仕事だ。

都市の面白さは馬鹿の数に比例する。馬鹿が増えれば効率は悪いが夢のある空間になる。馬鹿が増えれば儲からないかも知れないけど人の心を串刺しにするほどのエグい文化が生まれる。馬鹿が無謀なことに挑戦するからこの世は先に進んでいく。馬鹿はこの世で最高のエンターテイメントだ。

==追記==

NEW WORLD PARTY森山幸治のホームページ

ここで一人の男を紹介する。

岡山に帰ってから10年経つが、彼ほど馬鹿な男を見たことがないし、彼ほどウソを本当にしようと努力する男を見たことがない。彼ほど格好つけずにまっすぐ前を向いて生きている男を岡山で見たことがない。僕が言うと説得力が無いかも知れないけど、岡山で唯一人物を認めた男だ。

時代は変わった。

だけど社会は変わらない。

ならば新しい世界をつくろう。

不況の日本の辺境の岡山でこういうことを言えてしまうほど彼はやっかいな奴だ。だが面白い。何が面白いかって?彼は新しいんだ。ポスターに「新型」って書いてしまう。その下にご丁寧に「ニュータイプ」って書いたりもする。ガンダム世代しか分かんねーよ。というか、疲れたガンダム世代に希望を抱かせるにはパンチの効いたストレートでいい言葉だぜ。

昔、岡山には二人の馬鹿がいてな、一人は日本の新しい食文化を創り、一人は絶望の淵だった岡山を花畑にしたんだよ。みたいな感じになることを心の底から願っている。僕は岡山とか東京とかそういう範囲を超えて馬鹿になろうと思うよ。だから岡山から馬鹿が一人減ってしまうんだけどね。しかし大丈夫。なぜなら、彼が一人で岡山を一変させてしまうほどの馬鹿であることを、骨の髄まで狂った僕が保証するのだから。もしかしたら日本もお花畑にしちゃうかもね。

彼は僕の中ではすでに殿堂入りさ。