アイデアのスープのレシピ

アイデアのレシピ集

きちんと作って、きちんと売るというのは、大切な何かを捨てるということになる時代らしいが、ナショナルデパートは歩みを止めない。

銀座三越の催事も終わり、スタッフにもつかの間の休息が訪れた。催事の結果はおそらく総合でも2番手以上の売上を出せていると思うし、一週間の間に売上がトップだった日も数日あった。ただ会場自体が八階ということもあって人出は思ったよりも少なかった気がするが、その中でもきちんと結果が出せたのはよかったのではないか。そんな感じに思っている。

会期中にリピートしてくださったお客様を多く手応えはかなり感じた。その反面、高円寺には行きにくいという声もたくさんいただいた。やはり山手線内側でないとキツいなというのが正直なところ。高円寺は好きだが店の運営となると資金が用意でき次第に出店か移転をしたほうがいいな。高円寺に出店したのはこの地に需要があるとふんだわけではなく、たまたまという要素が多いので売上を安定させるのにもかなり力が必要だ。その点からしても需要のあるエリアに近づくという考え方は大切にした方がいいと思う。

で、一枚の画像を見てもらいたい。

普通はこんな画像をわざわざ見せる必要は無いのだが、僕の性格上普通に載せてしまいます。衝撃画像とかグロ画像ではないのですが、まあ、不快に思う方もいると思うので前置き。

「捨てられたパン」の画像です。

捨てられるパンたち10月10日(土)売上がトップだった日の営業終了後。捨てられたパンの画像。画像の分だけで60kg以上あると思う。通常の催事の売上予測で計算したが、実際はその半分以下しか売れずほとんど廃棄となった。捨てられるパンを見るのは何度経験しても耐えられない。心の中が寒くなるというか、えぐられて心の中身をすべてほじられて空っぽにされてしまうような感覚になる。

営業終了後、ウチは大量の廃棄商品が出たが、他のテナントは商品を冷蔵庫に仕舞って帰宅する。明日も売れるからだ。ウチ以外の店はそれぞれ地元でも数店舗を展開している大きな店が多い。なので専用の段ボールで商品が冷凍で届き、それを冷蔵庫で解凍して売る。冷凍のまま販売する場合もある。パンや菓子も冷凍生地が現場に届き、売れる分だけ小出しに解凍して焼成するからロスがない。いわゆる催事屋のスタイルだ。この現場が終わっても冷凍商品を次の催事の場所に送ればすぐに売れるというわけだ。頭がいい。

商品も半完成品も工場を出た時点で在庫になるわけだから、催事にかかる人件費さえ賄えればあとは在庫をはかせているだけでいい。冷凍であれば半年以上は賞味期限をいじる必要がないし、冷凍解凍品なら解凍からのカウントで賞味期限が表示できる。効率よくできたシステムなのだと思った。でもこれが悪いというわけではない。老舗の和菓子屋がデパートに出店して人気になり数店舗を運営するようになると必ず味が落ちる。これはすべての商品が冷凍されて保管されるようになるからだ。冷凍在庫のやりかたに変えないと対応できない。デパートでロールケーキを買うと「まだ冷凍されてますので解凍してからお召し上がりください」と言われることがある。ロールケーキはクリームが空気に触れないので冷凍に向いている商品だ。デパートやスーパーで売られている商品の大半は厳密に言うと冷凍食品だ。時代の進歩と言えるのだろう。

まちのケーキ屋さんでもずいぶん前からクリスマスケーキを冷凍するようになっているし、これは一般的に許される範囲なんだと思う。食べれば分かることだけど、まあ、舌がバカになっている人が多くなったということだろう。というか、冷凍されてないケーキというものがほとんど存在していないという状況では仕方が無いのかもしれない。

しかしだからといって売れなくなるわけではない。味が落ちても売れ続けるのだ。要は老舗の名前と知名度とデパートの立地があればなんでも売れる。つくることと売ることが必ずしもリンクしているというわけではない。

ナショナルデパートはこういった大資本のやり方にどうやって対抗して結果を出せば良いのだろうか。日々考えるのだがなかなか答えが出ない。別に対抗する必要はないんじゃない?なんて言われるが、それでは意味が無いのだ。「ちゃんと作ってるから数がそんなにできません」は言い訳で、きちんと作ったもので冷凍品に対抗してこそ僕の思いは成就するわけだ。単なる売上予測ではなくて製パンアルゴリズムみたいなものを独自に作り出せば、今の冷凍食品文化に対抗する手段を見いだせるだろか。

ともかく催事も終わり、これから徐々にではあるがナショナルデパートの第二段階が始まろうとしている。依然経営危機なわけだが、それはブランディングと製品開発で克服することができると思う。絶対に。やらなければナショナルデパートを始めた意味さえも無い。銀座で冷凍解凍品に売上で勝てたということがナショナルデパートの可能性をグッと高めたと思う。規模が10倍も大きいところに売上で勝てたのは自信になった。

まあ、明日からまた売れないパン屋という現実と毎日が始まるわけだが、心配しなくても大丈夫。必ず売れる。僕たちのやり方でかならず国内の食品業界に一矢報いることはできる。そのためにも僕もスタッフもこれだけは忘れないで覚えておこう。

「あのとき、僕たちのカンパーニュは銀座で一番売れたパンになった」