アイデアのスープのレシピ

アイデアのレシピ集

パンをおいしくしよう。

ナショナルデパート:カンパーニュを美味しくしよう

ここ最近は催事もあるので僕がパンを焼いていたりする。ああ、なんかやり方もずいぶん変えたもんだなあ、なんて思いながら毎日せっせと四季のカンパーニュを焼いている。昨日注文があったので久しぶりにトラディショネルなんて焼くことになって、そういえばずーっとゆきちゃんに任せてたから、自分でコイツを焼くのも1年ぶりとかそういう感じ。

シンプルなパンもゆきちゃん仕様にやり方を簡素化して失敗しない製法にしていたんだけれど、まあ、久々なので以前にやっていたような感じで焼いてみようと思った。配合も昔に戻して、手順もいくつか増やす、温度も時間もだいたいこんな感じかな。吸水も今よりも10%以上増えるし扱いにくいものになる。これじゃあスタッフ焼けねえだろうな。なんて思いながらせっせとこねる。

べたべたしていた生地がだんだんまとまってきて、高級なダウンジャケットみたいな感触になってくる。きもちいい。ぽよぽよしている。寝かせるごとに表面に水分がしみ出てくる。風呂上がりの若い女の子の肌の感触だ。温かくて湿っていて指に吸い付く感覚。

きもちいい。

あれ、こんな感じだったっけ?とか言いながら1年ぶりに自分の思い通りの感じに作り込んでいく。たねの粘度も量も昔のまま。たねの香りはフルーツの皮が地面で腐ったような感じ。雑木林の湿った地面。そろそろいいかな、焼き戻さなくても食べられるようにちょっと柔らかく仕上がるようにしといてあげよう。

オーブンに入れたら近所のスーパーに晩ご飯の買い物に行く。これもいつもの感じ。昔なら歩いていけるお店によく飲みに行っていた。発酵時間がとにかく長かったから発酵の行程ごとに飲みに行って、焼き始める頃には泥酔していたこともよくあった。女の子を口説いている間に「ちょっと待っててね、帰らないでよ、ここにいてよ」とか言って店に帰って作業をしてまた飲み屋に戻る。で、オーブンに入れたら酔いも回ってほっとしてそのまま床で寝てしまう。オーブンのブザーの音で目が覚める。女の子を口説いていたことを思い出して急いで飲み屋に戻る。女の子はとうに帰っていて「あの子かわいかったなあ」とか言いながらまた店に戻ってパンを焼く。そんな感じの生活だった。

ナショナルデパート:カンパーニュを手でちぎった

ガワは軽く。昔はガシガシに焼き込んでいたんだけれど最近あんまり焼き込まなくなったのは、「パンが焦げている」と言われてお客さんの家まで謝りに行かされたことがあるから。今じゃ当たり前のカンパーニュの焼き込みも、8年前は無茶苦茶な言われようだった。カンパーニュはそういう扱いを受けていた。今は認知度も上がって雑誌のパン特集もカンパーニュだらけだけど、昔は違った。飾ったデニッシュがブームだった気がする。少数派はいつも肩身が狭い。

手でちぎったときの感じは昔に戻った。使っている粉の麩量が違うから若干変わってはいるけど、なんかこんな感じ。8年前のカンパーニュと同じ。でも、昔に比べるとかなり軽い仕上がりにした。ここまで詰めれば劣化の時間も稼げるからしばらくはそのまま食べられるだろう。こういう感じもアリだよね。

ナショナルデパート:カンパーニュの断面

良い風味がする。弾力はなんか食パンとかベーグルの間とかそういう感じ。少し苦みがあるのが焦げた全粒粉の良いところ。鼻を抜けるのは若草のような小麦の香り。唾液が口の中に溢れる。甘くて苦い。小麦畑を一面焼いたらこんな匂いがするのだろうか。いいね。この感じ。

やっぱり楽しい。これからも自分で焼こうかな。自分で焼けばゆっくりできるし、無駄に効率上げなくても済むし。昔みたいにのんびり焼いて、遊び回って、いや、結婚してたんだっけ。じゃあ、夜はワイフと酒でも飲みながらゆっくりパンを焼きたいな。パンは欲しい人に譲ってあげて、美味しいところを持って帰ってもらおう。四季のカンパーニュも製法を変えようかな。昔の良いところと、今の製法の進んだところを取り入れて、昔と今を行ったり来たりしながら、ゆっくりとパンを焼きたいなあなんて。そうだな、パンをおいしくしよう。なんか思い出した。そういえばパンを焼くのは楽しいことだったんだなって。