アイデアのスープのレシピ

アイデアのレシピ集

本屋さんでパンを売るということ。

はじめに。

僕は去年の今頃2010年12月に世の中に新しい提案をしていました。それは本屋さんで食品を販売するという常識からは少し離れたアイデアです。世の中が電子書籍へとシフトしていく雰囲気の中で、電子書籍だけではない、紙の書籍だけでもない、本という存在に縛られることもない新しい空想の世界が僕の頭の中に広がっていました。そして今年2011年、僕は新しいサービスを考えました。本屋さんで本以外の商品を販売するマルシェのような場、もうひとつは本屋さんの中に小さな百貨店を作るというアイデアです。僕はこの二つのサービスをこう名付けました「本棚マルシェ」と「本棚百貨店」です。僕の中でおぼろげに浮かんでいたアイデアの輪郭が見え始めた瞬間でした。

そして2011年12月7日、たくさんの奇跡やたくさんの出会いが重なり新しい試みが始まりました。僕が五年間描きためてきた合計十二冊の絵本とパンとお菓子をつかった新しい試みです。絵本の過去十二作品すべてを電子書籍化してTSUTAYA.com特設サイトで販売し、絵本付きのプチシュトーレンや新作絵本二作品にパンやケーキの手作りキットがバンドルされたパッケージをTSUTAYA店舗の特設コーナーで販売するというものです。本棚マルシェという新しい試みにはTSUTAYAの五店舗様が趣意にご賛同してくださいました。

本屋さんで販売するため専用に設計された食品パッケージが、実際に本屋さんの店頭で販売されたのはこれが初めてではないでしょうか。出版社でもなくデザイン事務所でもなくパン屋さんがこれを起したことに大きな意味を感じています、それは機会の場が開かれたことを意味していると思うからです。このエントリーでは本屋さんでパンを売るということについて、そのきっかけから実施しての感想や今後の展望までを書いていきたいと思います。

そして当たり前ですが僕一人の力ではこのことを成し遂げることは出来ませんでした。中心となってこの企画を成功に導いてくれたCCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の多田様、電子書籍化、物流関連で相談に乗ってくださった多くの方々(ここではお名前を省略させて頂きます)、そして僕の突拍子も無いアイデアに賛同し素敵な商品ディスプレイをして展開してくださったTSUTAYA TOKYO ROPPONGI、TSUTAYA半田店、TSUTAYAあべの橋店、TSUTAYA香里園店、TSUTAYA天神駅前福岡ビル店のご担当者の方々にこの場を借りて感謝申し上げます。

画像左が「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」様でのディスプレイの模様。画像左が「TSUTAYAあべの橋店」様でのディスプレイの模様。商品はすべてA6サイズで統一されているので陳列も容易です。協力してくださった関係者の皆様本当にありがとうございました。

パンを焼いているだけでは想いは伝わらない

書店で食品を販売するというアイデアはきっかけの最初からあったわけではありません。絵本を描くきっかけは五年前に販促品とひとつとして絵本はどうかというアイデアがあった程度で、今のようにお菓子や手作りキットとバンドルして販売しようなどという意思はありませんでした。最初に描いた絵本が10,000冊印刷して全国で無料配布するという企画になり、最初の絵本から商品の販売拡大のための「販促品」という主旨が消えたことはその後の企画の展開に大きな意味を持っているかも知れません。販促のためのツールとして絵本を描くというという主旨が無くなった後、残ったのは単にメッセージを伝えるための手段としての絵本というシンプルなものになった気がします。

ナショナルデパートの主力商品である「四季のカンパーニュ」はひとつが5kgの大きさ、それは美味しいという理由だけではなく「分け合う」という世の中に提案し伝えたいメッセージがまず僕の中にあって、それを商品として形にするために5kgというサイズで焼く必要性があったわけです。言葉で「分け合う」と書くと変な個人主義の浸透している日本人には伝わりにくいのではないか、また考え方が固まっている大人向けのメッセージで「分け合う」を発信するよりも子供向けに分かりやすく説教臭くない形態でメッセージを発信できないかという試行錯誤の中で絵本という形式でのメッセージを発信を思いついたわけです。

「分け合う」というメッセージを伝えるために絵本を描き始めたので、パンを売ろうとかそういう考えは絵本を描くということそのものとは違う位置にあるのではないかと思うようになりました。でも僕はもともと絵本作家ではないので絵本自体に値段をつけて販売するということもできない、ではどうすれば良いのか、ということの出口として無料配布ということに踏み切りました。「分け合う」というメッセージが5kgのカンパーニュを分け合うというナショナルデパートの商品スタイルと符合して、「絵本」というツールが僕の中に眠っていたメッセージを伝える手段としてかなり重要な存在になりました。

ナショナルデパートの絵本「フラワークリスマス」

そして2006年12月、第一作目の絵本「フラワークリスマス」を発行。合計10,000部が無料配布されました。その後1kgサイズのカンパーニュと同じテーマで描かれた絵本をバンドルして販売する「シェアカンパーニュ」のサイトを作ったりしながら少しずつ作品を拡充し、絵本を販促品やデザインツールのひとつとして企画するのではなくそこに伝えたい想いを込めることで絵本と食品がメッセージを通して一体化した新しいパッケージングが形成されたわけです。ストーリーを描くという絵本の在り方に引きずられるように宣伝や広告という意味合いが薄れ、第一作目の絵本から店名や宣伝は表記せずホームページアドレスだけを裏表紙に表記するというシンプルな形式になりました。

ここまで絵本を描き始めたきっかけを書きましたが、そもそもパン屋さんが絵本なんて描く必要無いのにどうして僕は絵本を描かなければいけなかったのでしょうか、絵本を描かないと満たされない状況になったのはどうしてでしょうか。それは僕がパン屋さんで働いたことも無ければパン屋さんで修行したことも無いからだと思っています。安くて美味しいパンを作るのは大勢の方々がやってくださっていますし、大手メーカーのパンも研究開発されてとても美味しいものが出回っています、僕が同じことをする必要があるのかと何度も自分に問いかけてみましたが「自分にしかできないことをやりなさい」という答えが返ってくるばかりです。パンを焼いているだけでは想いは伝わりません。パンは安くて美味しければ良いのです、その他に求められていることなどひとつもないのです。僕は思いを伝えることを中心としたスタイルに仕事をシフトしました。思いを伝えるためにパンを焼き、思いを伝えるために絵本を描く。それが僕の仕事との関わり方をよりシンプルにより自然にしてくれると信じていました。

パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない!!

絵本の第一作目を発行し終えてすぐに僕は次の作業に取りかかりました。絵本やパンやお菓子が僕の思いを伝えるためのツールなら、本から始まる食べ物があっても良いのではないかというプランです。本に書いてあるストーリーから生まれた食べ物が本と一緒にバンドルされた商品。このアイデアが浮かんだのにはきっかけがあります。駅などで販売されているお土産菓子に付いてくるリーフレットです。お菓子とは何の脈絡もないことを無理矢理ひっつけてご当地お土産にしてしまおうというのは、もはや日本国内の地方都市の基本仕様のようになっていますね。

「博多っ子の”気質”がそのままお菓子になりました!」

「博多っ子の粋な遊び心を込めた命名のお菓子です!」

中身はただのお菓子なんですよ。なんですけどリーフレットにはこう書いてある。お土産は欲しいけど古くさい味や古くさいデザインのものは嫌だという日本人ならではの歴史や伝統を軽く蹂躙するフィーリングがお土産物消費を左右します。サービスエリアや空港の売店、駅のお土産物コーナーにはジョークグッズばりの極彩色の菓子パッケージに占領され、巨大サイズのポッキーやご当地ロールケーキ、芸能人の似顔絵イラストが描かれたお世辞にも上品とは言えないパッケージ、どこかで見たことがあるご当地の工場で生産されていないご当地○○が棚に並びます。

で、僕はそういう売場を見るといつも思うことがあります。デザイナーさんはどんな気持でこの仕事をしているんだろうなあ。まあ仕事なので言われたことをしていれば良いんでしょうけど、ここまで品の無いパッケージにする必要があったのかと問われたら「他がああだからウチも目立つようにするにはこうするしか無いんですよ」というメーカー経営者の言葉が聞こえてきそうです。まあ売れれば良いんですから僕は別に否定しません。あれはあれで日本の文化だと思うのでこれからも独自進化していくと思いますし僕は実はそれが少し楽しみだったりします。

2007年2月、僕はナショナルデパートの新ブランドとして「女王製菓」を発表しました。どこかの国のお姫様がその国の女王になるまでの壮大なストーリーを菓子パッケージにして順次発売していこうというプランです。ストーリーとお菓子の関係は、まずストーリーありきで菓子の内容は後から決められるという今までのお土産物とは逆の発想です。架空のストーリーの中で登場するお菓子を、女王製菓の歴史を後世に伝えるべくブールノワゼット公爵が書物として編纂する過程で思い出に浸りながら菓子を一つずつ再現していこうというこれも架空の設定です。

女王製菓:ナショナルデパート

2007年12月、ナショナルデパート岡山問屋町店(現在は閉店)で女王製菓の第一章「愛と真実のカメオ」より第一話「夜の静寂に妖しく香る赤い薔薇」の発売イベントを開催しました。女王製菓のパッケージの構成は一般的な地方のお土産と同じ、外箱、菓子、リーフレット、カード、という構成にしています。これは全国のジョークグッズ的な地方土産菓子に対する愛の宣戦布告です。ものすごい静かな宣戦ですが。食のデザインアプローチはジョークグッズにするか単にデザイン的にカッコいいものという範囲に限定されていたように思いますが、僕はそのどちらでもなく今までに無いまったく新しい物流や販路を通して食品プロダクトを提案していく、そのためにデザインが必要になるという発想で商品開発を続けてきました。その始まりがこの女王製菓です。ジョークグッズでもなく表面的なデザイン雑貨でもない、ストーリーを内包した新しい商品カテゴリーです。

リーフレットは三つ折り6Pで漫画パート2P小説パート2Pの構成、カルタは2種類用意してどちらか1種類が封入されているというお楽しみ。第一話のお菓子は姫が民衆に追いつめられて慌てた姫がバラの香水をお菓子の生地にこぼしてしまうという逸話から生まれた薔薇のお菓子にしました。今では一般的な薔薇のフレーバーですが、五年前から取り入れていたとは過去の自分に頭が下がります。

女王製菓:ナショナルデパート

女王製菓を作ったことで僕は本から始まる食品プロダクトの可能性というものを見出しました。もはやデザインは添え物では無くガワをきれいに整える方便でも無く、そのものがその商品の起こりを意味していたりそれが無ければ商品が成り立たないという、食品とデザインの間を壮大なストーリーがつないでいくという新しい関係を築けそうな予感がしました。メッセージを伝えるツールとして並列に位置していた絵本とパンという存在から、ストーリーから生まれた菓子をパッケージングするデザインという新しい形式が生まれました。僕の中ではこれはエポックではなかったでしょうか。この女王製菓から派生してリーブルディマージュへとつながっていきます。

全国15,000店の流通網を手に入れろ

僕はパン屋でもなくデザイナーでもなく絵本作家でもない宙に浮いた存在です。

ナショナルデパートってどういう意味ですかという質問に対してあまり答えないようにしているのは、たぶん形にして見せないと理解できないことだと思っているからで、そういう段階で理解の壁から遠い場所にいる人に一生懸命に説明しても意味をなさないような気がしています。よく「ヒデシマさん新しい商品を作るの好きですよね」と人から言われます。たしかに考えたり作ったりするのは好きかもしれませんが、仕事としてはものを作ることに大した意味は無くて、新しいものを作ってその新しいものを売る販路を新しく作るのが僕の本当の仕事だと考えています。ナショナルデパートという社名はものを作るというよりもむしろ「新しい売り方」を作っていこう、そのための「新しい商品」も必要だよね。という順序で物事が考えられています。新しい小売りの殿堂とは何かを追い求めているのでしょうね。

本屋さんでパンを売る。そう聞くと「何を突拍子も無いことを」とみんな口々に言います。でも僕はこう考えています。書店ではパンを売っていないのに、コンビニではパンも本も雑誌も売っているじゃないかと。まあそもそもコンビニと書店では性質が違うので無理のある言い方かもしれませんが、僕の中ではすべてが同じフィールドの中にある感覚でいます。パンは焼き立てパン屋さんかスーパーやコンビニでしか売られていないという現状は、リテイルベーカリー業界の業態開発の怠慢が原因の発展途上ではないかとさえ思うのです。

ここでリテイルベーカリーという言葉の説明と定義について。リテイル(retail)とは一般消費者向けの小売のことを指します。ですからリテイルベーカリーというのはパンの小売店ということになります。袋入りのパンを製造してスーパーやコンビニに卸したり給食用のパンを給食センターに卸すのもリテイルとは呼びません。また、このリテイルベーカリーの定義には店内に焼成設備を持っているという項目が含まれます。店内で生地をこねる(冷凍生地を解凍する)等の工程を経て焼成工程を店内で完結させることができるパンの製造小売店のことを指します。

■2010年パン市場

小売パン     1兆7,969億円

流通パン     1兆4,045億円

ベーカリーパン  3,924億円

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リテイルベーカリー 12,000事業所

平均年商      3,270万円

このベーカリーパンというのがいわゆるリテイルベーカリーになります。リテイルベーカリーの小売店鋪数は約12,000事業所だといわれていますから、ざっくりと1店舗当たり売上額3,270万円/年となりますが、この数字の中には有名店や大型店などの年商1億や10億のお店も含まれています。12,000店のリテイルベーカリーが店内に焼成設備を持ち製造人員によってパンを製造し小売りまでを一貫して行っています。

■書店数の推移(2001年~2011年)

2001年  20,939店

2002年  19,946店

2003年  19,179店

2004年  18,156店

2005年  17,839店

2006年  17,582店

2007年  16,750店

2008年  15,829店

2009年  15,482店 ※2009年10月現在

2010年  15,314店 ※2010年5月1日現在

2011年  15,061店 ※2011年5月1日現在

<日本著書販促センターHPより>

電子書籍化の渦中にある書店数の推移も見てみましょう。2001年の20,939店から十年で5,000店以上も数を減らしていますが、でもまだ15,000店もあるのですね。この15,000店の書店は本を仕入れて委託販売をしています。そして売れなければ返品することが可能です。書籍で40%以上、雑誌で35%前後が返品されています。この返品可能なシステムが小さな書店でも豊富な品揃えが可能となり、出版取次が書店への流通を担うことでこの返品制度を支えています。

書店とリテイルベーカリーは共通点があります。どちらもロングテールであるということです。しかしリテイルベーカリーの場合は毎日焼き立ての商品を提供しなければいけませんから、何十種類~百種類を超える品目を毎日焼いて陳列するのは大変なことです。パンは生鮮食品と言われていますから、当然翌日に持ち越すことができません。毎日多品種パンを焼き毎日販売することが多くの小規模リテイルベーカリーにとっては大きな負担になっています。少量多品種は小規模事業者に向いていません、これを実現するにはセントラルキッチンの整備やある程度の販路の拡大が必須なのではないかと僕は考えています。

■コンビニエンスストア店舗数の推移(2001年~2008年)

2001年  39,809店

2002年  40,644店

2003年  41,114店

2004年  41,340店

2005年  42,643店

2006年  43,087店

2007年  43,228店

2008年  44,391店

(社)日本フランチャイズチェーン協会

2001~2008年度FC統計調査 (店舗数)

最後にコンビニエンスストアの店舗数の推移を見てみましょう。リテイルベーカリーと書店をすべて足してもコンビニエンスストアの総数には遠く及びません。リテイルベーカリーや書店小規模事業者が多いので、のれんを共有したチェーンストア、フランチャイズチェーンのコンビニエンスストアとは在り方がそもそもちがいますが、品揃えや鮮度管理などすべてに置いて小売店として競合する部分があります。

この章で触れた店舗数で何が見えてくるでしょう。僕は世の中が電子書籍の話題で盛り上がるのを尻目にこの数字に興味を持ちました。電子書籍は本の新しい流通方法です。今後は電子書籍が主流になるのかもしれません。でも既存書店数15,000店という強力な販路が持つこれからの可能性について誰も論じることがありませんでした。僕は電子書籍に見る可能性とは別にその時代の流れに取り残されそうになっている書店の持つコミュニケーションの可能性や“場”としての人をつなぐロマンにこそ未来を感じます。書店で販売する商品を開発することは全国15,000店舗の巨大販路を手に入れることに他なりません。実際に手に取るという行為は未来永劫無くなることの無い、人とプロダクトが交わるコミュニケーションの基本なわけです。

形態がコンテンツを制約するのではなく

コンテンツが形態を乗り換える時代へとシフトする

2010年12月、ナショナルデパートは絵本付きのお菓子「ふゆのおわり」を発売しました。これは絵本とパッケージのデザインを統一して、絵本のストーリーや世界観とイメージをつなげたお菓子をバンドルしようという試みです。絵本の制作で培ったストーリーコンテンツの制作、女王製菓で培った書籍バンドル商品の企画や菓子レシピの開発、ストーリーとの連動やパッケージデザインの設計など。書店で販売可能な食品プロダクトのフォーマットを独自に開発しました。書店で食品を売るという夢に向けて一歩を踏み出した瞬間でした。

ナショナルデパートの手作りキットと絵本

そして2011年12月、TSUTAYA五店舗で手作りキットとレシピをバンドルした絵本二冊を同時に発売しました。バンドルする商品を手作りキットとしたのは書店で食品を販売するというテーマから一歩先へと進んだ考えからです。パンにしてもお菓子にしても絵本にしてもネットで販売することが可能な商品です。電子書籍とは異なる紙の書籍、ネットで手軽に買うのではない書店で手に取って吟味できるパッケージ、手作りに必要な材料を買い足しに行くことができるよう配慮されたデザイン。どれもが流通形態を変えれば新しい販路に対応ができます。絵本だけでも販売できますし、レシピキットだけを単体で販売することも可能です。商品と出会う場が変われば、商品の形態も変えることができるのです。

画像をクリックで大きな画像が開きます。

上の画像は書店で食品を販売する企画を立てた時に最初に書いたマップです。コアを食育のコンテンツ化として、そこから電子書籍と実体書籍の関係やその流通経路をまとめています。「○○ありき」のような商品開発とは異なり、伝えたいことや形にしたいことを中心に、そこからプロダクトに落とし込む方向性を探っています。書店で食品を売る!というのが中心ではなく、最初に僕が絵本を描いたときのように「伝えたいことがあるから描く」と同じように「伝えたいことがあるから作る」という僕の考えは変わりません。

先にも書きましたが書店で購入するというのは人と商品のコミュニケーションそのものです。リーブルディマージュのレシピキットは食育と絵本という二つのキーワードを基本に企画されました。伝えるための絵本と体験して感じることのできる手作りキット、この二つを組み合わせることで食育から一歩進んだ「食体験」をプロデュースすることができるのです。電子書籍だけでは実現できない、紙の本だけも実現できない「体験」という要素を手作りキットで実現していこうという新しい試みです。

コンテンツは多様化していきます。そのコンテンツの広がりを流通が足かせをするようではいけないと僕は思っています。業界の常識というものに縛られて横並びで同じような事をしないとものが売れないという悲しい状態を僕は嫌というほど見てきました。商品構成や価格帯や店舗デザインや立地条件、郊外なら駐車場の整備など、まずは売場ありきの考えは業界の自殺を意味していると思います。資本があればすぐにでも解消可能な要素が経営のポイントになるのであれば、大手資本がすぐにでもやって来て蹂躙してしまい、そこにはもうぺんぺん草も生えない荒野が広がるばかりでしょう。

書店流通用の商品の開発はこれからも本格的に取り組んでいくと思います。古くからある、古くさいと思われている流通にこそ新しい何かを付加させる事によってまったく新しいものに生まれ変わる可能性を秘めていると思います。一般的な常識や世の中の流れや雰囲気に流されず、しっかりと世の中を見て行きたいと思います。流通に制約を受ける商品開発に時代は僕の中ではすでに終わっています。コンテンツ主導の商品開発の時代が来るとは思っていません、コンテンツ主導の商品開発の時代を自分で作っていこうと思っています。誰もやらないことはナショナルデパートがやる。それが僕がナショナルデパートを始めたきっかけなのだから。僕にとって本屋さんでパンを売るということは、新しい時代の幕開けのほんの始まりに過ぎないのです。