アイデアのスープのレシピ

アイデアのレシピ集

100万円でパン屋を開業する心得

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というわけで出店の準備も大詰めです。まだ何もしてませんが。

画像は出店場所の大掃除の様子。向かって左側のビニールで覆われた掘っ立て小屋が出店場所になります。ね、すげえ雰囲気あるでしょ。こんな物件、探しても存在すらしません。オーナーで友人の孝雄くんには本当に感謝してます。

この出店場所、広さは2坪弱。ここから新しいナショナルデパートの展開が始まるわけです。 ここにパンの焼成に必要な機材を無理やり詰め込んでいきます。リンク先の記事でも書きましたが、お店を出す事自体はもう5回目なので、ある程度の売上予測やリスクもなんとなく分かってます。だから、そんなにワクワクして期待を膨らませて夢や妄想に押し潰されることもありません。淡々と準備をやってます。

  

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まずは配置から

配置図はこうですね。

去年は神社にプロジェクションマッピングを奉納したりなんかして、お金がスッカラカンになったので、出店費用はすごく抑えます。しかし、最低限、営業に必要なものは揃えなければいけません。そういう観点から、100万円でパン屋を開業する心得的なものを書いておきます。これはこれからの自分のためや、購入リストを忘れないようにする備忘録という意味合いもあります。

あくまでナショナルデパート的なゲリラ出店方法なので、これを真似してもちょっと難しいとおもいますが、チャレンジしてみたい方はどうぞ。

 

100万円でパン屋を開業する心得

 

まずはミキサーですね、これがないとパンの生地を作ることが出来ません。しかし業務用のミキサーは高いんですよ。今使っているミキサーも30クォートなんですが90万ぐらいしました。13年間使い続けて、魔改造を繰り返し、ギヤオイル交換も何度したことやら。オーブンは商品ごとに変える必要があるので買い替えや買い増しでいろいろ買ってきましたが、ミキサーだけはおいそれと買えない。

で、中華ミキサーの登場ですよ。10クォートで10万円という未知の領域。これは使い捨てと考えておいたほうが良いと思います。一度に1.3kgまでの生地をミキシングできるそうですが、実際に見てみた感じだと、重心が高すぎるので、パンなどの粘りのある生地を中速で回したら、遠心力でミキサーごと銀河のどこかに吹っ飛んでいきそうです。これはボルトで台に固定して天井から突っ張り棒かなんかで補強する必要が有るかもしれません。

低速〜中低速あたりでないと安定的に使えないので、ミキシングで持って行くというよりも、オートリーズを多用して無理やりに生地に仕上げていくようになると思います。これに合わせてセントラルキッチンでもグランパーニュの製造工程を見なおしています。

 

本当はこれが欲しいんですよ。セントラルキッチンのミキサーも、フックを何本買ったか分からないぐらいなので、モーターの強力なものも欲しい。でも60クォートとか置くスペース無いんですよね、実際のところ。30クォートでオールステンレスボディ、脚が高い位置にあるので使いやすそうです。今使っているマイティ30は鋳造に塗装なのでサビがきちゃうんですよね。その点、オールステンレスなら少々の水はねでも錆びることはないと思います。搬入設置費用込みだと100万近く、あるいは100万オーバーするかもしれません。今は買えませんね。

 

中華ミキサーを設置する台はこれにしました。積載荷重が20kgちょっといけるので、ミキサーをおいても大丈夫。ただ、遠心力がかかると天板がボコボコになるかも分からないので、天板の上に衝撃吸収用のゴム板と15mm厚の板を置いて、その上に中華ミキサーを設置してボルトでサンドイッチして固定しようかと思ってます。

引き出しが4段あるので、一番上にはレシピのファイル、二段目以降にフックやビーター、三段目に温度計や糖度計やpH測定器を入れて、一番下にホイッパーを入れておく予定です。これは便利かもしれません。 

 

さて、生地がこね終わったら、それを収める番重が必要です。オススメはセキスイの抗菌コンテナ。これは生地離れもいいし、洗うときの感触が全然違います。うっすらと内容物も透けて見えるので、色のついた生地を作るウチには最適です。サンコーのばんじゅうもバリエーションが多彩で良いのですが、やはり使い勝手と軽さと洗浄の簡便さで言えば積水の抗菌コンテナが一押し。しかもミニサイズがあるので、今回のテストキッチンで使うには持って来いです。

 

番重の中で最初の発酵が終わったら、次はパンチを入れたり分割したり成形しなければなりません。そのための作業台はこちら。900×600とか作業スペースとしては狭すぎですが、今回は2坪弱という狭小スペースでの開業なので、作業スペースは極力そぎ落としました。 

 

そして今回の出店の目玉。自社セントラルキッチンで製造した冷凍生地の利用です。セントラルキッチンから送られてきた冷凍生地をストックしておく冷凍ストッカーは絶対必要です。ストックを素早く取り出して、ラインナップ管理もしやすい引き出しタイプのものにしました。

突然に冷凍生地というキーワードが出てきて驚くかもしれませんが、13年前に岡山の店を作った時、当初は冷凍生地メーカーになることを目指していたんです。そのためのテストとしてカフェにベーカリー機能をトッピングしたわけです。

その後、現在の「ももたん」の製造にも使っている包餡機を導入したのも、冷凍パン生地や業務用の冷凍食品を作ることを目指してのことだったのです。主にリッチな配合のパンをメインに冷凍生地を製造します。冷凍生地も、自社で内製すれば、材料費をふんだんにかけることが出来て、しかもコストが抑えられ、さらに人件費を抑えられるという一石三鳥のメリットがあります。岡山ー東京間の輸送コストを勘案しても、これはかなりのメリットがあります。

 

さて、生地の最終発酵も終わり、冷凍生地のストック場所も確保しました。いよいよ、焼成機材の導入です。これもミキサーと同じく、格安な中華オーブンにしました。欧州天板1枚差しが2段、ホイロが6段、これで税込80万円弱。これはコスパ最強です。いつ壊れるか知らないですがね。メーカー保証1年の間にペイできて、2年目にはもっと広い場所に移転して、もっとちゃんとしたオーブンを買うから、これは捨てても良い、という感覚でないと、中華オーブンを買ってはいけません。あとで泣きます。

このオーブンを選んだ決め手は、安さとコンパクトなサイズ、そしてホイロが付いているというところです。僕自身ホイロというものを使ったことがなくて、めちゃくちゃ原始的なやり方でパンを焼いているので、今回のホイロがついたコンパクトオーブンという初めての機器をしようすることに、ちょっとドキドキしてます。

この中華オーブン、1段でグランパーニュがギリギリ1本焼けます。庫内手前のスチーム反射板を取り外せば、庫内の高さも180mmになるので、焼成中に反射板を乗せれば十分に焼成可能です。もともとマルゼンの1枚差しを使っていた時期もあるので、このサイズのオーブンで焼けることは実証済み。あとは石床の材質が天然石仕様というところが気になりますが、スリップピールを使わないので、そんなに衝撃も加わらないから大丈夫だと思ってます。しかし安い、そして怖い。

 

セントラルキッチンで使っている現行のオーブンは、6取り天板4枚差しが2段、ホイロなし、というこれも高コスパオーブン。現行モデルは200万ちょいで買えるようです。しかしこのオーブン、なかなか見かけることがないと思います。みなさんが買いに行くような待ちのおしゃれなパン屋さんでは、まず使われることはありません。これは田舎のスーパーのインストアベーカリーなどでパートのおばちゃんが使っているオーブンなんです。でも、地味だけど、ハード系からテーブルロールまでしっかりと焼ける優れもの。

オーブンでの焼き具合の違いというのはありますが、ほとんどシェフの好みだと思うんですよね。テストベイクの結果、焼き上がりの具合が自分の好みかどうか、あとは修行していたお店で使っていたオーブンかとか、繁盛店のオーブンを見て真似てみようとかね。ただ、いろいろ見ていて思うのは、オーブンによって焼き上がりがあからさまに違うのって、今まで見てきた中でウェルカーと七洋製作所のバッケンオーブンぐらいなんじゃないかと思うんですよ。どちらも高いけど。

安くてもオールラウンダーなオーブン

だから、オーブン自体は魔改造か製法上の微調整で対応して初期投資を低く抑えるのが一番効率的なんじゃないかと思ってます。店が繁盛する前提で出店するか、店がいつ潰れてもいいという気構えで臨むか、その違いは大きいと思います。流行る前提で出店して、どうにもならなくなって閉店、というのも多いと思うので、僕の場合は1人で回せて、すぐに閉店しても他の事業でカバーできるようにという考え方で機材を選んでます。

 

さて、パンが焼けたら冷ましましょう。ということで、セントラルキッチンでも多用しているワイヤーシェルフの登場です。グランパーニュがちょうど1本乗っかります。欧州天板もはみ出しますが置くことができます。テストキッチンで焼くパンは、グランパーニュ、ドイツパン、アンパンの3種類なので、そのどれもが効率的に並べられるのはワイヤーシェルフだけです。天板ラックだとパンをそのまま置けないので、ワイヤーのすのこの上に置いて早めに水分を逃します。グランパーニュはクラストから一気に蒸気を抜かないと、その後の処理がしにくくなるので、焼いたらすぐにこのワイヤーシェルフに載せて冷まします。 

 

いよいよ最後、販売台です。引き出し付きの作業台を使うことで、キャッシャー代わりにもなるスグレモノです。引き出しが3枚あるので、1枚はキャッシャー、1枚はビニールものの包材ストック、1枚は紙袋のストックになると思います。セントラルキッチンでは専用の什器を作成しませんでした。すべてステンレス製の作業台を使っています。これもレイアウト変更が簡便で、しかも安い、捨てようと思ったらすぐに捨てられる、あるいは下取りに出せる、というメリットだらけなのが良いところです。 

 

さあ、ここまで紹介した機材と、現場の工事費用の内訳を見てみましょう。

内 訳 金額
ストッカー 46,440
ミキサー 109,250
デッキオーブン 740,000
作業台 18,187
販売台 43,684
ミキサー台 37,485
軟水器 25,320
ワイヤーシェルフ 9,980
木工造作工事 105,000
電気設備工事 182,559
給排水設備工事 79,040
雑工事 48,000
現場管理、諸経費  40,957
消費税  118,872
合計  1,604,774

 

実際にはこれにあと数万円増えますが、それでも出店費用は100万円台で収まっています。オーブンとミキサーだけなら100万円ポッキリ。それに什器や器具を足しても120万円。電気工事と雑工事を足しても200万円未満に収まります。これなら失敗してもアルバイトする程度でも十分にリカバリーできます。あと、僕が都内に引っ越す費用、マンションを借りる費用、などなど合わせても200万円未満です。すごくないです?

しかも、ほとんどの機材をクレジットカードで購入します。引き落とし日までの売上で支払いを済ませるので、実質開業資金というか初期投資はゼロです。

失敗する前提で出店するバカはいない、と言われる向きもあろうかと思いますが、パン屋は食っていくだけでもずっと働かなければいけない仕事です。儲かると思われがちですが、閉店するお店も多い。すごく儲かるにはいろいろな条件が重なる必要があります。

 

 

 

今年は閉店などがあるので、このまま何もしなければ前期に比べて3,000万円以上売上が落ちます。1商品、1事業で1億円を目指してきて、いままでそれを達成したことはありません。パンだけで1億円の売上を出そうとすればけっこう大変です。でも、5〜6,000万円の売上があれば十分に食っていけます。ですから、1商品、1事業を売上2〜3,000万円のユニットとして捉えて、その事業ユニットを増やしていくという考え方にシフトしています。

和菓子だけで2,000万円なら目標としては高くありません。パンだけで3,000万円ならおそらく簡単に達成できる数字だと思います。これに他の事業を加えていく、そうしてバランスよく売上を重ねていき、流動的な時勢の機微に対応していくことで生き残っていく、そしてさらに自分のやりたいことをやっていく、そういう考え方もあって良いのではないかと思うんです。 

まあ、僕は去年いらぬことにお金を使いすぎてスッカラカンになっただけなので偉そうなことは言えませんがね。